フリーランスの未払い問題「契約書なし」でも回収できる?法的対処法と防衛策
「信頼していたクライアントだったから、契約書を交わさずに仕事を受けてしまった」 「納品したのに、その後連絡が途絶えてしまった……」 「口約束だけで進めた案件、証拠がないから泣き寝入りするしかないのか?」
フリーランスとして活動していると、一度はこのような「未払い」の恐怖に直面したことがあるのではないでしょうか。特に個人間や、スピード感を重視するスタートアップとの取引では、「契約書なし」で業務がスタートしてしまうケースは決して珍しくありません。
しかし、結論から申し上げます。たとえ正式な書面としての「契約書」がなくても、あなたは報酬を請求する正当な権利を持っており、多くの場合で回収は可能です。
2026年現在、日本国内では「フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が完全に定着し、契約の形に関わらず、発注者側には厳しい義務が課せられています。また、デジタル上のやり取り(メール、Slack、LINEなど)は、現代の法廷において極めて強力な「証拠」として機能します。
未払い問題は、単なる金銭的な損失だけでなく、あなたのクリエイターとしての尊厳を傷つけ、今後の活動意欲を削ぐ深刻な問題です。本記事では、契約書がない絶望的な状況から、いかにして法的な権利を行使し、報酬を勝ち取るか。その具体的なロードマップを、最新の法制・IT環境に即して徹底解説します。
「諦めて忘れる」のではなく、「正当な対価を回収し、次のステップへ進む」ための知識をここで身につけてください。
目次
契約書なしでも「合意の証拠」があれば法的手段は行使できる
まず、最も重要な結論をお伝えします。日本の法律(民法)では「諾成契約(だくせいけいやく)」が認められており、双方の合意があれば、書面がなくても契約は成立します。さらに、2026年現在の法環境では、契約書がないこと自体が「発注者側の違法行為」とされる可能性が極めて高いのです。
未払い報酬の回収において、以下の3点が現在のスタンダードな考え方です。
- 「契約書」という名称の書類は必須ではない: メールの履歴、チャットツールでの依頼内容、納品物の受領確認、これらが揃っていれば、裁判所は「契約があった」と認定します。
- フリーランス保護新法の適用: 発注者が企業や組織である場合、書面(または電子メール等)による取引条件の明示は、発注者側の「法的義務」です。契約書を作らなかったことの責任は、多くの場合、発注者側にあります。
- 「黙秘」や「無視」は通用しない: 法的手段(内容証明郵便や支払督促)を段階的に踏むことで、無視を決め込むクライアントに対しても、強制的に支払いを実行させる、あるいは相手の資産(預金口座など)を差し押さえる道が開けます。
つまり、「契約書がない=負け」ではありません。「証拠を集め、順序立てて請求し、法的制度を賢く利用する」。このプロセスを完遂できるかどうかが、回収の成否を分ける唯一のポイントになります。
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なぜ「契約書なし」でも戦えるのか、法的な背景とデジタル証拠の威力
契約書がないにもかかわらず、なぜ法的に強気で出られるのか。そこには3つの確固たる理由があります。
1. 民法における「諾成契約」と「仕事完成の事実」
民法上、請負契約や業務委託契約は、一方が仕事をすることを約束し、もう一方がその報酬を払うことを約束すれば成立します。これを「諾成契約」と呼びます。 さらに、あなたが実際に納品物を作成し、それを相手が受け取っている(あるいは確認できる状態にある)という「既成事実」は、何よりも強力な証拠です。相手が「契約はなかった」と主張したとしても、「では、なぜこの成果物があなたの手元にあるのか?」という問いに答えることはできません。
2. 2024年施行・2026年定着の「フリーランス保護新法」
この法律により、発注者がフリーランスに対して業務を委託する際、以下の項目を直ちに「書面または電磁的方法(メール等)」で明示することが義務付けられました。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注者の名称
もしこれらが明示されていなかった場合、それは発注者側の法律違反となります。つまり、「契約書がない」という状況自体が、あなたが不利になる材料ではなく、相手が公正取引委員会や中小企業庁から指導・勧告を受けるべき材料に変わるのです。
3. デジタル証拠(電子記録)の証拠能力の確立
現代の裁判や調停において、LINEのスクリーンショットや、Slackのログ、メールの送信履歴は「書面に準ずる証拠」として扱われます。
- 「この内容でお願いします」という依頼
- 「承知しました」というあなたの返信
- 「〇〇円(税込)です」という金額の提示
これらがバラバラであっても、時系列で繋ぎ合わせることで「契約の成立」を立証できます。契約書という「1枚の完成された書類」がなくても、パズルのピースを集めることで、法的な効力を持たせることが可能なのです。
4. 未払いという「不当利得」の禁止
相手が納品物を受け取っていながら、報酬を支払わないことは、法的には「不当利得(法律上の原因なく他人の財産によって利益を受け、他人に損失を与えること)」に該当します。法律は、不当に得た利益を返還させる仕組みを持っているため、契約書の有無に関わらず、相手には支払い義務が生じます。
未払い報酬を回収するための「5段階」実践ロードマップ
契約書がない状態で未払いが発生した際、具体的にどのような手順を踏むべきか。2026年現在の実務に即した最強のステップを解説します。
ステップ1:証拠の「全量確保」と時系列整理
まず感情的になって相手を問い詰める前に、すべてのやり取りを保存してください。
- チャットログ: LINE、Slack、Chatwork等のトーク履歴をPDF化、またはスクリーンショットで保存。
- メール: 依頼から納品報告までの全履歴。
- 成果物: 送信したファイル、公開されたURL、作成途中のデータ。
- 通話記録: 電話で合意した場合は、その後のメールで「先ほどの電話の通り、〇〇円で進めます」と送った履歴など。 これらを**「いつ・誰が・何と言ったか」**という時系列の表(証拠説明書)にまとめます。
ステップ2:丁寧かつ毅然とした「最終確認メール」
無視されている場合でも、一度は「支払いの催促」という既成事実を作ります。
「お世話になっております。〇月〇日に納品いたしました〇〇の件ですが、お支払い期日である〇月〇日を過ぎております。入金のご確認、または状況について本日中にご返信いただけますでしょうか。万が一ご返信がない場合は、法的な手続きを含めた対応を検討せざるを得ません。」 このように、「期限」と「次のアクション(法的手段)」をセットで伝えることが重要です。
ステップ3:内容証明郵便(弁護士名義が理想)の送付
メールを無視し続ける相手に対しては、「内容証明郵便」を送ります。これは「いつ、誰が、誰に、どんな内容を送ったか」を郵便局が証明する公的な手紙です。
- 効果: 相手に「本気で裁判を考えている」というプレッシャーを与えます。
- 2026年のポイント: 電子内容証明(e内容証明)を使えば、24時間オンラインで送付可能です。弁護士に依頼して弁護士名義で送ると、回収率は劇的に上がります。
ステップ4:支払督促(しはらいとくそく)の申し立て
内容証明も無視された場合、裁判所を通じた「支払督促」を利用します。
- メリット: 書類審査のみで行われ、裁判所に足を運ぶ必要がありません。費用も裁判の半分程度です。
- 効果: 相手が2週間以内に異議を申し立てなければ、**「仮執行宣言」**が付与され、相手の銀行口座や売掛金を差し押さえる(強制執行)権利が得られます。
ステップ5:少額訴訟(60万円以下の場合)
報酬が60万円以下の場合は、原則1回の審理で判決が出る「少額訴訟」が非常に有効です。
- 特徴: 弁護士を立てずに自分で行うフリーランスも多いです。即日判決が出るため、スピード解決が可能です。
- 契約書なしの戦い方: ステップ1で集めたチャットのコピーやメールを証拠として提出します。裁判官は「実態」を重視するため、やり取りの整合性が取れていれば、契約書がなくても勝訴できます。
よくある質問(FAQ)
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相手の住所がわかりません。SNSのIDしか知らない場合でも請求できますか?
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弁護士に依頼して「弁護士会照会(23条照会)」を行えば、電話番号や口座番号から相手の住所を特定できる場合があります。ただし費用がかかるため、報酬額とのバランスを考える必要があります。今後は、たとえ小規模な案件でも、事前に相手の「氏名・住所・電話番号」を控えておくことが重要です。
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フリーランス保護新法は、個人対個人の取引でも適用されますか?
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発注者が「従業員を使用する事業者」である場合に適用されます。発注者が完全に一人の「個人(一般消費者や、従業員のいない個人事業主)」である場合は、新法の直接的な対象外となることがありますが、その場合でも民法(請負・委任)に基づいた請求は当然可能です。
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未払いのまま相手が「倒産」や「自己破産」をしたらどうなりますか?
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非常に厳しい状況ですが、相手が会社であれば「未払賃金立替払制度」のような仕組みはフリーランスには適用されません。ただし、破産管財人に対して債権者として届け出を出すことは可能です。リスク回避のためにも、未払いが1ヶ月以上続いた時点で、すぐにステップ3(内容証明)へ移行する決断力が求められます。
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裁判費用の方が高くつきそうで不安です。
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少額訴訟の場合、印紙代や切手代などの実費は数千円から1万円程度です。弁護士にフル依頼すると赤字になることもありますが、最近では「法律相談のみ」や「書類作成サポートのみ」を行うフリーランス向けの安価なサービス、またはフリーランス協会の「所得補償保険」に付帯する弁護士費用保険などを活用する道もあります。
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今後、契約書なしで仕事を頼まれたらどう断ればいいですか?
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断る必要はありませんが、「条件を可視化」してください。 「弊社ではコンプライアンス遵守と、2024年施行のフリーランス保護新法に基づき、メールにて取引条件の明示をお願いしております。こちらのフォーマットに沿って返信いただけますか?」 このように、「法律を守るため」という正当な理由を添えれば、角を立てずに書面化(メール化)できます。
まとめ:正当な報酬は「権利」であり、あなたの未来を守る糧である
フリーランスにとって、未払いは単なる不運ではありません。それは、あなたの専門性と労働に対する「侵害」です。たとえ「契約書なし」という不備があったとしても、あなたが提供した価値が消えてなくなるわけではありません。
今回のポイントを復習しましょう。
- 「契約書なし」でも、デジタル上のやり取りは強力な証拠になる。
- フリーランス保護新法により、発注者側の義務は2026年現在、非常に厳格化されている。
- 内容証明、支払督促、少額訴訟という「段階的な攻撃」を知っておく。
- 「無視」を最大の防御にさせないために、法的手段を躊躇しない。
もし今、未払いに悩んでいるのなら、まずは今日からすべてのチャットログをPDF保存することから始めてください。そして、ステップ2の「最終確認メール」を送ってみましょう。それだけで、相手の態度が急変することも少なくありません。
フリーランスという自由な働き方を守るためには、**「戦うための知識」**が必要です。今回のトラブルを、今後の「鉄壁の契約管理」への糧に変え、より強固なビジネス基盤を築いていってください。あなたの正当な権利が守られ、報酬が手元に届くことを強く願っています。
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