合同会社の役員報酬が払えない時の緊急対処法|未払いの税務リスクと社会保険料の法的救済策
「今月の会社のキャッシュが足りず、自分の役員報酬を後回しにするしかない……」 「合同会社を設立したものの、売上が安定せず、設定した報酬額が重くのしかかっている」
合同会社(LLC)は、株式会社に比べて設立コストが低く、利益配分や意思決定の柔軟性が高いことから、個人事業主の法人成りの受け皿として非常に人気があります。しかし、経営が一度暗転すると、この「柔軟性」が仇となり、役員報酬の取り扱いを巡って深刻な法的・税務的トラブルに発展するケースが後を絶ちません。
経営者がまず直面するのは、**「役員報酬は従業員の給与のように、その時の都合で勝手に金額を変えられない」**という税法の鉄の掟です。
会社に現金がないからといって、帳簿上で役員報酬を未払い計上したまま放置したり、相談なしに減額したりすると、税務署から「定期同額給与」として認められず、会社側の経費(損金)から除外されてしまう恐れがあります。さらに、実際に報酬を受け取っていないにもかかわらず、社会保険料の負担だけは発生し続け、個人の生活と会社の財務を二重に圧迫するという負のスパイラルに陥ります。
「払えないものは払えない」という現実は避けられませんが、その「払い方」や「未払いの処理」を一つ間違えるだけで、将来的に多額の追徴課税を受けたり、個人の信用情報に傷がついたりする危険性があるのです。
特に合同会社の場合、代表社員(役員)自身が実務を担う「プレイングマネージャー」であることが多く、報酬の支払不能はダイレクトに経営者自身の生存危機に直結します。
本記事では、「合同会社の役員報酬が払えない」という極限状態にある経営者の皆様に向け、税務上の「未払い計上」の正しい手順、社会保険料の猶予・減額制度の活用法、そして「定期同額給与」のルールを壊さずに報酬を改定するための法的ステップを詳述します。
今、あなたが取るべき行動は「ただ我慢すること」ではありません。法的に正しい知識を武装し、会社と自分自身を再起させるための「出口戦略」を構築することです。この記事が、そのための羅針盤となります。
目次
役員報酬の未払いは「税金の二重苦」を招く。即座に「未払い計上」か「臨時改定」の法的処理を行うべきである
結論を申し上げます。**合同会社において役員報酬が払えない状況に陥った際、最もやってはいけないことは「何の手続きもせず、うやむやに支払いを止めること」**です。
会社に現金がなく、報酬を支給できない場合でも、経営者は以下のいずれかの法的措置を即座に選択しなければなりません。
- 「未払い金」としての適正な経理処理: 現金は渡さなくても、帳簿上で「役員報酬/未払金」と計上し、源泉所得税を納付し続けることで、法人税上の「損金(経費)」としての権利を守る。
- 「業績悪化改定事由」による報酬減額: 著しい業績悪化がある場合、年度の途中であっても例外的に役員報酬を下げることが可能です。これにより、会社が負担する社会保険料の「標準報酬月額」を引き下げ、キャッシュアウトを物理的に抑える。
- 「社会保険料」の猶予・減額申請: 役員報酬を未払いにしても、社会保険料は「発生」し続けます。これを放置せず、年金事務所に対して「納付の猶予」を申請し、差押えを回避する。
合同会社は株式会社よりも自由度が高いとはいえ、税務署と年金事務所は「形式」を極めて重視します。「お金がないから払わなかった」という事実は、適切な書類がなければ「役員報酬の放棄(=寄付金扱い)」や「定期同額給与の違反」とみなされ、最悪の場合、会社に追加の税負担が発生します。
なぜ「未手続きの未払い」が、会社と経営者個人を破滅させるのか
なぜ、単に報酬を我慢するだけでは済まされないのか。そこには、日本の税制と社会保険制度が抱える「形式主義」という高い壁があります。
① 「定期同額給与」の原則という足枷
法人税法上、役員報酬を会社の経費にするには「毎月同じ金額を支払う」という「定期同額給与」のルールを守る必要があります。 もし、現金がないからといって月によって支払額を変えたり、特定の月だけゼロにしたりすると、税務調査で「その報酬は経費として認めない」と判断されます。結果として、**「給与は払っていない(経費にならない)のに、利益が出ているとみなされて法人税がかかる」**という、笑えない悲劇が起こります。
② 社会保険料は「支給額」ではなく「決定額」にかかる
ここが最も恐ろしい点です。役員報酬を「未払い」として帳簿に載せている限り、実際に1円も受け取っていなくても、年金事務所は「当初決めた報酬額」に基づいて社会保険料を請求してきます。 未払いが続くと、会社負担分だけでなく、本来経営者本人が払うべき個人負担分まで会社が立て替える形になり、会社のキャッシュは猛スピードで枯渇します。さらに、滞納すれば年利約9%近い延滞金が発生し、最終的には会社の口座が差し押さえられます。
③ 源泉所得税の納付義務は消えない
税務上、役員報酬を未払いで計上した場合、「支払ったもの」とみなして源泉所得税を翌月10日までに納付しなければなりません。つまり、**「自分にお金は入ってこないのに、国への税金だけは現金で出ていく」**という矛盾した状況が発生します。これを知らずに所得税も放置すると、不納付加算税という罰金が科せられます。
報酬未払いの「落とし穴」にはまった経営者と、危機を脱した経営者
合同会社の現場で起きている、リアルな失敗と成功の分岐点を可視化します。
【ケース1:手続きを無視し、多額の追徴課税を受けたWeb制作会社】
- 状況: 売上が急落し、代表社員の報酬50万円を3ヶ月間「ゼロ」にした。特に書類も作成せず、通帳の振込を止めただけだった。
- 経過: 2年後の税務調査で、「定期同額給与の違反」を指摘された。
- 結果: 報酬を再開した後の分も含め、その年度の役員報酬総額600万円のうち、変動があった期間の損金算入が否認された。会社には法人税の追徴課税と重加算税が課され、約200万円の予期せぬ支払いが発生。資金繰りがさらに悪化し、解散を余儀なくされました。
【ケース2:法的ステップを踏み、社会保険料を月10万円削減したコンサル会社】
- 状況: 契約解除が相次ぎ、役員報酬40万円の支払いが困難に。
- 対応: 即座に「同意書(役員報酬の改定に関する臨時社員総会同意書)」を作成。税務上の「業績悪化改定事由」に該当することを明記し、報酬を10万円に減額した。
- 解決策: 社会保険の「随時改定(月変)」を申請。
- 結果: 決定から4ヶ月後、会社と個人が負担する社会保険料が合計で月10万円以上安くなった。同時に、年金事務所へ「納付の猶予」を申請し、過去の滞納分の分割払いを認めさせたことで、差押えを回避しつつ、事業を継続。1年後、売上の回復とともに報酬を適正額に戻すことに成功しました。
役員報酬が払えない時に「今すぐ」実行すべき4つの防衛策
経営者が自らの生活と会社を維持するために、法的に有効な手順を整理します。
① 「業績悪化改定事由」を適用した報酬減額
年度の途中でも、「取引先の倒産」「大幅な売上減」「銀行からの融資条件としての減額」など、客観的な業績悪化があれば報酬を下げることができます。
- 必須書類: 合同会社の「社員総会同意書(または決定書)」を作成し、減額の理由を具体的に記載して保存しておいてください。これが税務調査時の唯一の盾になります。
② 社会保険料の「随時改定」と「猶予」の申請
報酬を下げたら、速やかに社会保険の標準報酬月額の変更届を出してください。また、既に払えない滞納分がある場合は、放置が最も危険です。
- 年金事務所への相談: 「事業の継続が困難になる恐れがある」ことを伝え、1年以内の分割納付を認めてもらう「納付の猶予」を申請します。これにより、延滞税が大幅に軽減され、差押えが猶予されます。
③ 「未払い」とするなら源泉所得税だけは死守する
報酬を下げたくない(将来的に一括で受け取りたい)場合は、帳簿上で未払い計上を続けます。ただし、この場合でも**「源泉所得税の納付」だけは確実に行ってください。** 税務署は「給与の未払い」には比較的寛容ですが、「源泉税の未納」には極めて厳しく、即座に差押えに動く傾向があるからです。
④ 「借入金」への振り替えを検討する
もし個人に貯金があるなら、一度役員報酬を支払った形にし、その直後に個人から会社へ「役員借入金」として貸し付けるという手法もあります。これにより、定期同額給与を守りつつ、会社のキャッシュを維持できます。ただし、社会保険料の負担は変わらないため、根本解決にはなりません。
FAQ:合同会社の役員報酬を巡る「知っておくべき真実」
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役員報酬を「ゼロ」にしても社会保険は抜脱退できませんか?
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代表社員として実態がある限り、報酬がゼロでも社会保険への加入義務は残ります(最低ランクの保険料がかかります)。社会保険を完全に脱退するには、法人の休眠や役員の退任、あるいは一定の条件を満たす必要があります。
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合同会社なら、代表の私が「払わなくていい」と決めれば済むのでは?
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会社法上はそれで済みますが、税法上は別です。自分一人の会社であっても、税務署は「会社」と「個人」を別の存在として見ます。書面がない変更は、すべて「脱税」や「不適切な経理」と疑われるリスクがあります。
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未払いの報酬は、後で利益が出た時に一括で受け取れますか?
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はい、帳簿に「未払金」として正しく計上していれば、資金ができた時に支払うことが可能です。ただし、その際も「源泉所得税」の処理と、当時の「定期同額給与」の整合性が問われます。
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役員報酬を払わない代わりに、会社の経費で個人の生活費を払ってもいいですか?
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絶対にダメです。それは「役員賞与」とみなされ、会社側で経費にならないだけでなく、個人に高い所得税がかかり、さらに「不納付加算税」などの重い罰則の対象になります。
まとめ:形式を整えることが、最大の「節税」と「倒産防止」になる
「合同会社の役員報酬が払えない」という事態は、経営者にとっての「敗北」ではなく、一時的な「戦略的撤退」の局面に過ぎません。
本記事の総括:
- 無策の放置は最大のリスク: 税務調査での否認、社会保険料の強制徴収を招く。
- 書面によるエビデンス: 「なぜ下げたのか」「いつ決めたのか」を社員総会同意書として残す。
- 社会保険料のコントロール: 報酬改定とセットで随時改定を行い、法定福利費を圧縮する。
- 公的制度の活用: 年金事務所や税務署への「猶予申請」により、事業継続の時間を稼ぐ。
合同会社の強みは、その柔軟な意思決定にあります。その強みを活かし、法的な手続きという「守り」を固めることで、キャッシュアウトを最小限に抑え、再浮上のチャンスを待つことができます。
経営は、生き残った者が勝ちです。目先の報酬を一旦手放してでも、会社の法人格と個人の信用を守り抜いてください。正しく処理された「未払い」や「減額」は、将来のあなたを救うための「賢い選択」となるはずです。
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